(6)白起と長平の戦い
白起の人生は長平の戦いで頂点を極め、その後、急降下したといってよいだろう。
長平の戦いで、趙側の戦死者は45万人にのぼった。
その戦国時代最大の戦いの一部始終を史記に見る。
■史記 白起・王翦列伝第十三(参照、岩波文庫・史記列伝1)
そもそも長平の戦いは上党をめぐる戦いであった。
上党とは北へ突出した韓の領土で豊かな土地であった。
しかし、長平の戦いは韓と秦ではなく、趙と秦の戦いとなった。
その経緯は以下のとおり。
昭王45年
白起が韓の野王城を伐ち、野王城は秦に降服したため上党から韓の都への道は断たれてしまう。
つまり上党だけが飛び地になってしまったのである。
上党の太守・馮亭は領民と相談する。
「韓はもはやあてにすることが出来ない。
ならば、いっそのこと上党は北の趙につくというのはどうか?
趙が上党を受け取れば、秦は怒って趙を攻めるだろう。
趙に戦いが波及すれば、趙と韓はきっと和親する
韓と趙が一つになれば、秦に対抗することができる。」
馮亭はそう言うと、使いを趙へ派遣する。(中略)
趙では上党を受け取ることに賛否両論であったが、
なにもせずに領土が増えるという魅力には勝てず、結局、上党は趙の領土となる。
そうしてとうとう秦が攻めてくる。
昭王47年
秦は左庶長の王コツを遣り韓を攻めさせ上党を奪った。
上党の住民は趙の方へ逃げ、趙は長平まで出兵して、そこで秦をくい止めようとした。
4月
秦将の王コツはなおも趙を攻めた。
趙は廉頗を将軍としていた。
秦の斥候兵が趙の副将・茄を切り殺した。
6月
趙の軍は敵の計略に落ち、2つの砦と部隊長4人を失った。
7月
趙の軍は土城を築いてふせいだ。
秦はその土城を攻撃し、部隊長二人をとらえ陣営をやぶり、西の土城を奪い取った。
廉頗は堅く土城を守って敵と対峙していた。
秦の軍はたびたび戦いを挑んだが趙の兵は土城に立てこもり出撃しない。
廉頗のもとには趙王から「なぜ出撃して戦わないのか!」という問責の使者が幾度となくやって来る。
そこへ秦の宰相・応侯(范雎)は、趙へ間者を出し千金をばら撒き流言させた。
「秦が何よりも恐れているのは、馬服君の子・趙括が総大将になることだ。
廉頗なんかは相手にもならぬ。やがて降参するだろう。」
趙王は廉頗の軍に逃亡兵が多く、敗戦をかさね、しかも城を守るばかりで出撃しないことに立腹していた。
そのやさき、秦の間者の放った流言を聞き、
趙王は趙括を廉頗の代わりの将軍として、秦を撃退せんと長平へ派遣する。
趙括は趙の名将・趙奢の息子で、兵法に精通していると評判の男であった。
だが実は、彼は実践経験がない青二才にすぎなかった。
机上の論理ばかりで、名将・廉頗の上をいく戦いができるわけがないのである。
秦では馬服の子(趙奢)が将軍となったと知るや、まずひそかに武安君白起を上将軍とし、王コツを副将にした。
さらに秦は、武安君(白起)が総大将になったことを漏らしたものは死刑にすると、全軍に布告した。
要するに秦は、敵国には親の七光りで天狗になっている若者を将軍に据えさせ、
みずからの軍では秘密裏に百戦錬磨で無敗を誇る名将を将軍に登用したわけだ。
趙括は着任するや出撃した。
秦軍はわざと負け色を見せて退却し、ふた手の別働隊を出して、側面をおびやかした。
趙の軍は勝ちに乗じて追撃し、秦の土城に達した。
しかし秦軍の防備は堅く、進入できない。
その間に秦の一隊2万5千人は、趙の軍の退路をたち、もう一つの騎兵隊5千は、趙の陣地の連絡を絶った。
趙の軍は2つに切り離され、食糧の道も絶えた。
そこを秦の軽装の兵に襲撃されて、戦況不利となり、その場に陣地を構築し堅く守って救援を待った。
秦王は趙の軍の食糧輸送路を切断したと聞くと、
王みずからすでに秦の領内になっていた河内(かだい)地方へ赴き、
人民たちにそれぞれ一級ずつ身分を与え、15歳以上の男子すべてを徴発し、
みな長平へゆかせ、趙の本国からの救援軍および食糧の輸送路をふさがせた。
九月
趙の兵卒はもう46日のあいだ、食糧が届かないでいたから、互いに殺し合い、その肉を食べていた。
秦の陣地を攻め、囲みをやぶって脱出せんと、兵を四隊に分け、四度五度と出撃を繰り返したが成功しなかった。
将軍趙括は精鋭をひきいて出、自ら切り込んだところを射殺された。
大敗となって、、趙の兵士四十万人は武安君に降服した。
武安君は考えた。
「さきに秦は上党をおとしたが、その領民は秦に属したくないのか、趙についた。
趙は結局裏切るだろう。全部殺しておかなければ、反乱の恐れがある。」
そこでうまくだまし、残らず生き埋めにして殺した。
ただ年の小さいもの240人だけを趙へ帰してやった。
この戦いで首を取り捕虜としたものは前後あわせて45万人。
趙は大いに動揺した。
昭王48年10月
秦は再び上党郡を鎮定した。
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◆ 目 次 ◆ 序 1.史書にない白起像 2.白起はどれだけ強かったか? 3.白起をとりまく人間関係 4.戦国時代最大の戦争・長平の戦い 5.白起の大量殺戮の背景 6.抗命事件と白起の最期 7.年表で見る白起の時代 8.参考文献一覧 ![]() |
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