徒然ナル駱駝

-China series - Special Thanks & Links - Luotuo BBS - mail -


その名はキウイ


キウイフルーツ。
それは、見た目の印象を裏切る、甘酸っぱい果実。
好き嫌いはともかく、今ではキウイフルーツを知らない人はいないであろう。
しかし、このフルーツが身近になったのは、そう、20年ほど前であろうか。
長い歴史から思えばほんの最近のことである。

このお話は、キウイフルーツが出回り始めた頃の思い出である。

私が小学校2年生だったころ、いつものように近所の友人たちと下校する道すがら、
「ねぇ、キウイって知ってる?」と、さいちゃんがみんなに聞いた。

「きゅうり?」
「ううん、キウイだよ。」
「知ってる!おいしいんだよねー!」
「そうそう、中が緑色のでしょ?」
「えーっ!?いいなー、私食べたことなーい。」
みんなが盛り上がる中、見たことも食べたこともないのは私だけであった。

言いだしっぺのさいちゃんの家はスーパーを営んでおり、新製品には抜群の情報力を誇っていた。
それにひきかえ、私の家は農家で、古いものに関しては抜群の在庫力(?)を誇っていた。
なにせ、郷土資料館にあるようなものが、そのまま生活に溶け込んでいたのである。
さすがにコタツは電気ゴタツを使っていたけれど、私の小さいころは、火鉢に練炭入れて、じいさまがあたっていたし、豆炭のアンカで布団を暖めたものだ。
私が中学生になったころ、さすがに練炭や豆炭の入手が難しくなってきて、今では、もちろん電気毛布やファンヒーターの恩恵にあずかっている。
そんな家だから、食べ物も新しいものには抵抗があり、セロリやピーマン、ブロッコリーなど、かなり大きくなるまで知らずに育った。
ピーマンも残さず食べなさい!などと言われない代わりに、夕食が焼肉やシャブシャブ、手巻き寿司などが食卓に現れることはなかった。
キウイなど知るわけもない。

しかしそれからまもなく、ついに我が家にもキウイがやってきた。
母が勧められて買ってきたのだ。

茶色の毛むくじゃらのその実は、とてもおいしそうなシロモノには見えなかったが、母が皮を剥いてくれると、意外にもみずみずしい緑色が現れた。
輪切りにすると芯が白く小さい黒い種が集まっている。
「これ、白いとこは残すの?種も食べて平気なの?」
などとドキドキしたものだ。
そうして、これで明日からみんなみたいに
「キウイっておいしいよね!」
と大腕を振って自慢できる喜びにほくそ笑んだ。

だがその喜びを断ち切る怒鳴り声が聞こえた。
それは、ばばさまが呼ぶ声だった。

ばばさまは大正元年生まれにしては珍しく、女学校を出ており、一人っ子で婿取りで、年のわりに好奇心もあれば、自転車も乗りこなした。
ようは、一家でもっとも発言力があり、皆が恐れている存在がババサマであった。

そのばばさまが冷蔵庫を開けて怒鳴っている。
何か怒られるんだ。
直感でわかる。
「なーに?」とそばに寄ると、
「だれだ!冷蔵庫の中に、ジャガタラ(じゃがいも)入れたんは!全部、カビが生えてんぞ!」

ばばさまの指の先にあるものは、まぎれもない、あのキウイフルーツだった。


強烈なキャラクター故に、長生きするだろうとだれもが疑わなかったばばさまも、じいさまを残し、88歳でこの世を去った。
いまでもキウイを見るとばばさまの大声を思い出し、もう一度、怒られてみたいと思うのだ。


徒然ナル駱駝の表紙へ    次のお話へ    駱駝書房TOPへ